労災保険ってどんなの?|誰に給付されるの?どんな時のケガや病気が対象?
「労災」っていう言葉は誰もが一度は聞いたことがあると思います。「業務災害」のことを指したり、労災保険の給付を指すこともあります。では、いったいどんな場合に労災保険の給付を受けることができるのでしょうか。今回は労災保険の「適用される人」と「適用される場合」をざっくり説明します。
1 どんな人に労災給付は支給されるの?
基本は労働者であれば全員対象!!
「適用事業」に使用される「適用労働者」が対象になります。
適用事業
労働者を使用する事業は「適用事業」となります。
つまり、原則として労働者を使用する事業はすべて「適用事業」に該当しますが、一部適用除外があります。
◎適用除外
・国の直営事業および官公庁の事業
国家公務員災害補償法や地方公務員災害補償法が適用されるため適用外。
補足①▶︎「地方公共団体の現業部門の非常勤職員」は適用。(市営バスの運転手や学校の用務員など)
補足②▶︎独立行政法人の職員は原則適用。ただし、国立印刷局、造幣局などの「行政執行法人」の職員は国家公務員扱いになり適用除外。
また、一定の要件に該当する農業、水産業、林業は労災保険に加入するかは任意となっています。(暫定任意適用事業といいます)
つまり、ざっくりいうと官公庁以外はだいたいの事業で適用!!
適用労働者
労働基準法の「労働者」と同様です。
・個人事業主、法人の代表取締役、同居の親族などは対象外。
つまり、「労働者」であれば日雇労働者や臨時に雇った労働者、外国人の不法就労者であっても「適用労働者」!!
2 どんなときに労災給付が支給されるの?
「業務上の災害」、「2つ以上の仕事の負荷の総合によって発症」、「通勤中の災害」の場合に支給!!
①業務災害
「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」のこと。
業務災害として認められるためには「業務起因性」と「業務遂行性」が必要です。
業務起因性
その業務が有している危険性や有害性が現実化したと認められる場合に「業務起因性」があります。
業務遂行性
労働者が使用者の「支配下」にある状態と認められる場合に「業務遂行性」があります。
例えば以下の場合です。
「業務遂行性」(仕事中など)がある場合に→「業務起因性」のある事故が発生した場合に「業務災害」と認定されます!!
補足▶︎「業務遂行性」があっても、下記の場合は「業務起因性」は認められません。
・労働者の積極的な私的や意図的にやった行為によって発生した事故の場合
・業務が有している危険性や有害性が現実化したと認められないほど特殊な要因で発生した事故
実際に労災保険が適用されるかは、仕事内容や個別の状況をみて判断!!
②複数業務要因災害
複数の事業に使用されている労働者の、2以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害または死亡を「複数業務要因災害」といいます。
一つの就業先での業務上の負荷(労働時間や精神的なストレス)だけでは傷病との因果関係が認められなくても、複数の就業先での業務上の負荷を総合して評価すると因果関係が認められる場合は「複数業務要因災害」として認定される場合があります。
③通勤災害
「労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡」を「通勤災害」といいます。
◎通勤について
通勤は下記の移動のことを言います。
①「住居」と「就業の場所」との間の往復
②複数の事業場に就業する労働者が、「就業の場所①」から「就業の場所②」への移動
補足①▶︎「就業の場所①」は労災保険法、地方公務員災害補償法、国家公務員災害補償法により通勤災害保護制度の対象になっていること。
補足②▶︎「就業の場所②」は「労災保険」の通勤災害保護制度の対象になっていること。労災の通勤災害は通勤の最後の事業場(就業の場所②)で処理が行われるためです。
③単身赴任者等が、「住居」と「就業の場所」との間の往復に先行、もしくは後続する住居間の移動で所定の要件に該当するもの
労働者が単身赴任等で、転居する前の住居(以後、帰省先住居)と就業の場所との間を日々往復することが困難になり、「赴任先住居」へ移転した労働者が、「やむを得ない事情」により下記の人たちと別居した場合。
・配偶者(内縁関係なども含む)
・子(配偶者がいない場合)
・要介護状態で、労働者が介護している父母または親族(配偶者または子がいない場合)
つまり、上記の人たちと別居している労働者に「やむを得ない事情」(その上記の人の介護や子供の養育をしているなど)がある場合に認められます!!
また、単身赴任者等が③の移動に該当するためは、
・「帰省先住居」⇄「就業の場所」の移動
反復・継続性がある
・「帰省先住居」→「赴任先住居」
業務につく前の、当日もしくは前日(交通機関の状況などによっては前々日)の移動。
・赴任先住居→帰省先住居
業務についた後の、当日もしくは翌日(交通機関の状況などによっては翌々日)の移動。
である必要があります。
◎合理的な経路および方法
通勤と認められるためには、「合理的な経路および方法」であることが必要です。
・「合理的な経路」 一般に通行すると考えられる経路。不必要な遠回りなどは対象外。
・「合理的な方法」 一般に認めれる方法。通行禁止区域の通行、飲酒運転、無免許運転などは対象外。会社に申請している方法(徒歩や電車など)と違っても、通常の労働者が用いる方法であれば対象になります。
◎業務の性質がないこと
業務の性質のある移動でないことが必要です。業務の性質がある場合は「業務災害」に該当します。
◎逸脱・中断
通勤の移動中に移動の経路を逸脱・中断した場合は、その間とその後の移動は通勤としません。
つまり、通勤と関係なく経路を逸れたり、関係のない行為をしたときから通勤災害が認められません。
補足①▶︎「ささいな行為」を行っただけと認められる場合は、「逸脱・中断」に該当しません。経路途中の公園での小休憩や経路途中の店でタバコや缶コーヒーの購入などです。
補足②▶︎「日常生活上必要な行為であって一定のものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」は逸脱・中断の間を除き、通勤とします。
上記の後に通常の経路に戻ったら、通勤の対象になります。
3 保険料はいくら?
原則、労働者は負担なし!!
保険料については、全額事業主負担となり労働者の負担はありません。
事業主負担については業種によって異なったり、労働災害の発生率によって増減します。また、中小事業主や建設業の一人親方が加入する特別加入の制度などもあります。
4 まとめ
今回は労災保険が「適用される人」と「適用される場合」についてざっくり説明しました。
たとえ労災保険の適用外だったとしても、「健康保険制度」から補償を受けることができます。その場合、別の機会にご説明いたしますが、負担する費用の面などで「労災保険」と異なります。また、労災保険適用なのに健康保険を使って診療をうけるとその後の手続きが煩雑になることもあります。あくまで労災保険が適用になるかは労働基準監督署の判断ですが、ご自身でも労災保険の範囲を知っておくといいでしょう。また、通勤災害の対象外になるからといって、定時後を謳歌するな、というわけではないので、「労災保険制度」と「健康保険制度」についてざっくり押さえておきましょう。